比較・第三章(2巻)

第三章 滅びの子

 

(1)月の忌屋

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忌女の姥 忌屋の姥
悟(さと)ったのだ 悟(し)ったのだ

 

(2)禊ぎ

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傾きかけている陽は 傾きかけた陽は
流れてゆくのかしら 流れてゆくのかな
忌女
世話ができてるだろうか 世話ができてるのかな
五百依姫の、 五百依姫づきの、
自分を迎えに来るんだろう わざわざ、迎えに来るんだろう

 

(3)燃える石

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その目に、なぜか一瞬、敵意の
ような色が走って、きえた。
(削除)
鎮まりかえった神の沙庭に響きわたる神琴の、初弾きの絃ゆれのように、真澄の声が、真秀の心をみるみる潤ませてゆく。 (削除)
その瞬間、真澄の体から、いっせいにとびたつ蝶のように、花の芳香がたちのぼった。 (削除)
やがて、はっとして、思わず顔をあげた。やはり、花の匂いがする。 思わず顔をあげた。真澄の体からは、ほのかに甘い、花の匂いがする。
思わず声にだしていう真秀を いいかける真秀を
わけがわからず問う真秀の額や、まぶたに、真澄はやさしく口づけた (削除)
さらさら流れる川のように語る真澄の声には、どんな波も立っていなかった。
そのあまりの静けさが、かえって真秀を不安がらせた。
(ただの赤子って、真澄…)
静かにいう真澄の声には、どんな波も立っていなかった。
そのあまりの静けさが、かえって真秀を面くらわせた。
そういって、なだめるように真秀の頬をなでていた真澄の指が そういって、なつかしむように真秀の髪をなでていた真澄の手が
燠火のように、カッと赤らんでゆくのを みるみるカッと赤らんでゆくのを
浮かれ、弾んだ声とともに 浮かれて、はずんだ声とともに
真澄の腕をとらえて、彼の顔をのぞきこんだ。
その顔には、どんな表情もうかんでいなかった。憎しみも厭わしさも、愛しさも、なにも。
ただ深い眠りから醒めたもののように、うつろな顔をしている。
真秀はすばやくふたりに摑みかかり、真澄の腕をとらえて彼の顔をのぞきこみながら、叫んだ。
真秀、おちついて 真秀、それは……
その静かすぎる沈黙が、真秀を怯えさせた。 それがますます真秀を不安がらせた。
この女はなにを欲しがったの⁉ この女はなにを欲しがったの?
なぜ、真澄の霊力は、真澄を守ってくれなかったのか、なぜ! なぜ、真澄の霊力は、真澄を守ってくれなかったのか、なぜ。
霊力は息づかないのではないか、と。 霊力は息づかないのではないかと。
なのに、あたしがぼんやりしてて、それを聞きとらなかったのね⁉ なのに、あたしがぼんやりしてて、それを聞きとらなかったんだ。
霞がかった時間をすごしているすきに! 霞がかった時間をすごしているすきに。
真秀、いけない‼ 真秀、いけない!
聖域(せいいき) 聖域(かむど)

 

(4)黄金の太刀よりも 歩搖の冠よりも

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大和(ヤマト) 大和(やまと)
お兄さま 兄さま
黄金(おうごん) 黄金(こがね)
血がひいてゆくほどの戦慄をおぼえた。 血がひいてゆくのをおぼえた。

 

(8)滅びの子

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乗った のった
見事な 美事な
幾千 幾百
冷徹な 冷たい
だけど……—— だけど。
婢女以下 ヒト以下
だったのか? だったのか。
滅ぼす……? 滅ぼす……——
大和(ヤマト) 大和(やまと)
十年かかって、御影をすっかり手なずけてしまっていた。そしてある夜、 御影がすっかり彼になついたのを幸い、十年後のある夜、
やったというのか。 やったというのだろうか。
押しひしぎ おしひしぎ
でも……―― でも。
しかし、ろくに食べ物ももらえず、泥水をすするような身に零ちていたはずだ しかし、族人の憎しみは変わらなかった
叫んだ さけんだ
真実 真事
なんだって⁉ なんだと⁉

☆佐保彦に「幾万の民草を殺してきた武人とも思えぬおことばだ。」と言われて返した、美知主の台詞「せいぜい幾千といったところですよ、佐保彦王」が、文庫版では幾百に。減ってる。